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ドイツのド真ん中にあるボラースドルフ。そこは、目立つことや、特別なことをしないで、ごく普通で平凡であることを美徳とする平和な村でした。 その村に暮らす子どもたち、リーケ、マックス、レネ、ポール、スーゼ、ベンの6人はアカハナグマのクアッチと一緒にいつも楽しく遊んでいました。ある日、村に消費者調査会社“銀色団”が乗り込んできます。彼らは、世界一平均的なその村を、まだ発売されていない新商品のマーケット・リサーチを行うモニター村にしようとやってきたのでした。市長をはじめ大人たちは皆、その申し出に大喜びでしたが、子どもや老人たちはまるで人体実験のような調査会社のやり方に不満でした。
村の老人たちは、さまざまな分野で初めてのことを成し遂げてきた、特別で、ちょっと変わった人ばかりでした。でも、平凡を目指す大人たちにとってそんな彼らは、目ざわりな存在でした。やがて大人たちは、彼らを老人ホームへ送り、閉じ込めてしまうのでした。
でも、幼い孫たちにとっておじいちゃんやおばあちゃんは、仕事に忙しい両親の代わりに面倒を見くれ、いろいろなことを教えてくれる大切な存在でした。そしてついに、子どもたちは大人たちの横暴に立ち上がります。子どもたちは幼稚園を脱走し、大親友のアカハナグマ、クアッチと一緒に“ハナグマ・ギャング団”を結成、おじいちゃんとおばあちゃんの救出作戦を開始します。
「この村はフツー過ぎてモニター村にされちゃった。だから村を特別にすればいいんだ! そうすればおじいちゃんやおばあちゃんが帰ってくる!」そう考えた子どもたちは、自分たちの村から世界新記録を出そうとがんばりますが、なかなかうまくいきません。もうダメだとあきらめそうになったとき、天才クアッチがすごいアイデアを思いつきます。
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大好きなおじいちゃんとおばあちゃんを老人ホームから救い出すため、幼稚園を脱走した6人の4歳児と1匹のアカハナグマ。その名も“ハナグマ・ギャング団”が次々と巻き起こす、奇想天外な作戦の数々に村の大人も、親たちも大騒ぎ。やがて天才アカハナグマのクアッチが、世界一フツーで退屈だった村をハッピーな楽園に変え、おじいちゃんとおばあちゃんを連れ戻す大発明を思いつきます。それは、“世界でいちばんのイチゴミルク”でした。
スクリーンせましと全速力で駆けまわり、歌い、踊り、笑う子どもたち。自由奔放で純真無垢、天真爛漫で大胆不敵。やんちゃでわんぱく、おしゃまでちゃっかり、そして切ないくらいにキュート。そのピュアでポジティブな魅力は、見る者すべての顔をほころばせ、心を踊らせ、元気を与えてくれます。これは、子どもたちだけが持つ、無限のエネルギーが炸裂する奇跡の“チビッコ・スペクタクル”! ここに、映画史上最高のキッズ・ムービーが誕生しました。
製作、監督は『ツバル』(99)、『ゲート・トゥ・ヘヴン』(03)などを手掛けたドイツの鬼才ファイト・ヘルマー。本作は、彼が敬愛するチャールズ・チャップリンやジャック・タチの諸作品、ハル・ローチ・スタジオが製作した『ちびっこギャング』シリーズにインスパイアされ、オマージュを捧げています。主演の子どもたちには、演技指導を受けた子役俳優は一切使わず、個性的で元気な子どもらしさ持った6人をオーディションで厳選、全員これが映画初出演です。そして、子供たちとともに大活躍するアカハナグマ“QUATSCH(クアッチ)”の驚きの名優ぶりも見逃せません。
出演は他に『帰ってきたヒトラー』のファビアン・ブッシュ、『戦場のアリア』『アイガー北壁』『ソハの地下水道』のベンノ・フュルマン、『サウルの息子』のクリスチャン・ハーティング、『カルロス』のアレクサンダー・ジェーア、『ヒトラー暗殺、13分の誤算』のウド・シェンクなど、ドイツ映画界で活躍中の名優たちが脇を固めています。 本作は、世界中で50以上の子供映画祭を席巻し、ルートヴィヒスハーフェン・ドイツ映画祭最優秀子供映画賞“金のニルス賞”、チューリッヒ映画祭最優秀子供映画賞、ベルファスト・シネマジック最優秀作品賞、マイケル・ムーア映画祭観客賞最優秀子ども映画賞など、数々の賞に輝いています。
6人のこどもたち―“ハナグマ・ギャング”が、ついに大暴走をはじめるアクション・クライマックスが、なんといっても痛快である。まずは清掃車の高い運転席にみんなが乗りこんで、この車が大好きなマックスが運転。そもそもは大変な混沌におとしいれたパン屋さんを清掃するという目的があったはずだが、道路をつっ走らせるうちバランスをうしなって横転。そうなると、もう運転してつっ走ること自体が目的化してしまったかのように、トラクター→これまた横転、汽車(ディーゼル機関車)→止めようとして踏み切りに頭をつき出していたオトナの自動車と衝突、蒸気船→桟橋を破壊して沈没、消防車、最後にはひみつ基地だったクレーンまでもたおしてひん曲げてしまうという、建造物もふくめて村の大事なインフラをかたっぱしから壊しまくる、まさに大暴走、大破壊!
往年のスラップスティック・コメディーのような、無目的な(このシーンだけを見れば)破壊の快楽をあじあわせてくれるくだりである。
こどもたちが演じるスラップスティックといえば、つい、ハル・ローチが’20~’30年代に製作した「ちびっこギャング」シリーズ(原題は”Our Gang”だが、日本ではこの題名で’60年代にテレビ放映され、大いに人気があった)を思い出す。’20~’30年代のハリウッドではこどもが主役の短篇コメディがさかんにつくられ、シャーリー・テンプルがデビューした「ベイビー・バーレスク」という、人気映画のパロディーをこどもに演じさせるシリーズも人気があった。
アメリカ文化が、まだ純真で無垢なちからをもっていた時代だったといえるだろう。こどもたちは、こどもだけの世界で、ときにはオトナをまきこんで、ドタバタの純粋な笑いの世界をつくっていた。日本でも、突貫小僧や爆弾小僧が活躍した。
そんな時代とくらべると、この映画の”ハナグマ・ギャング”は、まわりからの抑制度の高い、きびしい世界に住んでいる。大暴走シーンは、さっき言ったように、そこだけ見ると無目的に破壊の快楽へつきすすんでいるように思えるが、全体から見ると、大きな目的をもった勇気ある行動なのだ。
村が、世界のなかで最も平均的な地域であることを保とうとするオトナたちに対する抵抗であり(こどもたちは「PROTEST」のプラカードを製作する)、フツーであることを誇ろうとする退屈な精神―しかも、それは商業主義に利用されるためのものでしかない―をどうにかするには破壊、創造的な破壊しかないのだ。
村のインフラをテッテー的に破壊したあと、こどもたちは、老人ホームから救出したおじいちゃん、おばあちゃんのちからをえて、破壊したものを、もとにもどすのではなく、のぞんでいたようなものにつくりなおす。クレーンはローラーコースターに、蒸気船は潜水艦に、トラクターは楽器に、清掃車はゴミから自転車をつくるリサイクル装置に。と、いったぐあいに、ちょっとおもしろいように環境をつくり変える。自分たちだけでは失敗したが、最後にはオトナたちのちからも借りて、毎日、パンが空中を飛んで各家庭にとどくようにする。
あの大暴走は、世界をつまらない方向へみちびき、固定しようとする勢力との戦闘だった。
だから、スラップスティック・コメディーと同時に、いささか戦争映画の様相をも感じさせるのだ。
こんな時代に住んでいるこどもたちは、純真で無垢でばかりもいられないかも知れないが“ハナグマ・ギャング”は、そうであるようにがんばっている。
彼らのがんばりをささえたのは、天才小動物、ハナグマのクアッチ。ハナグマ(花くまゆうさくという、まんが家の名前を思い出したけど、漢字でかけば鼻熊なんでしょうね、あの顔を見ると)とはまたケッサクな動物である。「ちびっこギャング」でも犬や猿がよく出てきて、こどもたちといっしょになってあばれていたが、クアッチは、それ以上の存在だ。イチゴのミルクセーキが大好物というのも、おもしろい属性。ミントを入れるとおいしくなるというのは知らなかった。いちど飲んでみたい。
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1968年4月24日、旧西ドイツのハノーファー生まれ。子供の頃から映画が好きで、14歳のとき8ミリカメラで撮影をとり始めた。数年間の助監督時代を経て、89年にはDAAD(ドイツ学術交流会)の奨学金を得て、1年間東ベルリンのエルンスト・ブッシュ演劇大学に留学。 その後、ミュンヘンのテレビ映画大学に進む。
学生時代に6本の短編を撮り、卓越した映像表現力とユーモア溢れる作品で国際的にも高い評価を受け、数多くの賞を受賞した。特に95年の“Surprise!”はベルリン、カンヌ、サンダンスなど140以上の映画祭に出品され52の賞を受賞。また同年、ヴィム・ヴェンダースの『ベルリンのリュミエール』に製作、共同脚本と助監督として参加している。
99年に『ポンヌフの恋人』などのドニ・ラヴァンを主演にブルガリアで撮影した初の長編『ツバル』を発表、サイレント映画にオマージュを捧げた同作はバイエルン映画賞ヤング・フィルム最優秀監督賞を始め62の映画祭に招待され、30を超える賞を受賞するなど、高い評価を受け、ドイツではブエナビスタの配給で公開された。
続いて03年には『ジプシーのとき』『黒猫・白猫』などの脚本家ゴルダン・ミヒッチと組み、フランクフルト空港を舞台にした国際色豊かな恋愛コメディ『ゲート・トゥ・ヘヴン』を監督、08年にもゴルダン・ミヒッチとのコラボレーションで、アゼルバイジャンでロケーションを行った民族色豊かな全編ロシア語のラブ・コメディ“Absurdistan”(未)を発表。11年にはウクライナの脚本家セルゲイ・アシウュケナジと組んでカザフスタンを舞台に、ロケット発射台のある村で宇宙船の鉄くず拾いをしているカザフスタンの少年とフランス人女性宇宙飛行士の恋を描くドイツ、ロシア、カザフスタン合作の“Baikonur”(未)を発表するなど、さまざまな文化や音楽、人種や民族を融合させたユニークでアーティステックなエンタテインメントを発表し続けている。
一方コマーシャルの世界でも、独特の映像センスでコカコーラ、ボーダフォン、ネスレなど、有名企業のCFを数多く手掛けている。
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1989 “Tour d'amour” (短編)
1990 “Die Räuber” (短編)
1992 “Zum Greifen nah” (短編)
1993 “Der Fensterputzer” (短編)
1994 “Tour Eiffel” (短編)
1995 “Surprise!” (短編)
1999『ツバル』
2000 “City Lives: Berlin” (ドキュメンタリー)
2001 “Hati-Hati, Malam-Malam! ”(短編)
2001 “Freudenhaus” (短編)
2001 “Uzbek Express! “(短編)
2003『ゲート・トゥ・へヴン』
2004 “Hundeleben” (短編)
2004 “Georgian Summer” (短編)
2005 “Behind the Couch: Casting in Hollywood” (ドキュメンタリー)
2006 “Caspian Bride” (短編)
2008 “Absurdistan”
2011 “Baikonur”
2014『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』
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ルートヴィヒスハーフェン・ドイツ映画際(ドイツ)
最優秀子ども映画賞“金のニルス賞” -
リーズ・ヤング・フィルム・フェスティバル(イギリス)
金の翼賞 -
チューリッヒ映画祭(スイス)
最優秀子ども映画賞 -
マイケル・ムーア映画祭(アメリカ)
観客賞・最優秀こども映画賞 -
ファイナルカット映画祭(ドイツ)
スペシャルメンション -
ベリーズ国際映画祭(ベリーズ)
10周年記念ユース賞 -
ベルファスト・シネマジック(北アイルランド)
最優秀作品賞 -
ブラソフ国際映画祭(ルーマニア)
最優秀芸術監督賞 -
リスタパッド(ベラルーシ)
観客賞 -
イラン国際映画祭(イラン)
子ども制作部門審査員賞 -
ジュニアフェスト(チェコ)
観客賞 -
カルーセル・リモウスキ国際映画祭(カナダ)
観客賞 -
ヒホン国際映画祭(スペイン)
観客賞 - 2016.12.12現在
大胆な子どもの行動は、大人には突拍子もない行動に見える。
しかし、その一つひとつには大きな意味があり、綺麗な気持ちが詰まっている。
失敗もするし、時には困らせたりもするけれど、笑顔で見守っていきたい。
心からそう感じる、素敵な映画です。
可笑しい! そしてジーンとくる!
こんな素晴らしい映画に巡り逢えるんだから、まだまだ長生きしたいと思いました!
可愛い過ぎる主人公たちに母性本能くすぐられまくり!
子どものころ夢見ていたことを大胆にやってくれている!
キッズ・アンド・ザ・シティ!
お年寄りと結託しているのもいいね。
今の時代に欠けている『心のままに生きる』の濃縮ジュースだ!!
あの村や私の囲りの子どもも、作り、こわし、考え、そして成長する。
子どもってなんて素敵なんだろう。私もズーッと子どものような大人でありたい。